訪ねた先は、牛乳とヤクルトとを配達している家だった。そこで母は私にヤクルトを1つ買ってくれた。それだけの用事だったような気がしてならない。小さい私にも怪訝だった。母はヤクルトを私に与えると来た道を直ぐに引き返したように思う。子供を負ぶって夜歩くには結構長い道のりである。戦後10年過ぎたとは言え、当時は今ほど世の中は豊かではなかった。兄の世代ほどではないが、子供が食べ物をねだっても親はそれに応えようがないほどに余裕はなかった時代だ。あのヤクルトは何だったのだろうかと今でも思う。私の誕生日は5月だ。ささやかな誕生日の印だったのだろうか。
巣立ちした百舌の雛が新芽を出した梢に止まって途惑っている。雛に何かを促しているのか、傍らで親鳥がしきりに鳴いている。私は立ち止まって雛の様子をしばらく見ていた。そしてふと、親鳥が鳴いているのは私への威嚇であることに気が付いた。邪魔をしている私は早々に立ち去ることにした。そしてその先の道端には杜若の一群が娘盛りを顕示していた。
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